総領事館便り 『宇宙兄弟』特別号


【レポート】制作側から紐解く!マンガ・アニメ『宇宙兄弟』

日本で映画化・TVアニメ化され、ますます注目を浴びている人気マンガ『宇宙兄弟』(小山宙哉 作)を取り上げ、日本のアニメ・マンガの魅力を制作側から紐解く講演会が、3月7日、ITSで開催されました。
今回の総領事館便りでは、『宇宙兄弟』編集者の佐渡島庸平氏、アニメ版プロデューサーの永井幸治氏を講師に迎えたセミナーや、声優 岡本ナミ氏による声優ワークショップの模様をお届けします。

才能を見極め、ヒット作を作る 【佐渡島庸平氏】



●佐渡島庸平
1979年生まれ。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など、数々のヒット作の編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。

どうやって面白い漫画をつくるのか

漫画は、まず漫画家(作家)と編集の2人で1年から1年半程企画を煮詰めます。
これはいける、という面白い案ができると、絵を作るアシスタントを雇って、連載がスタートします。
すなわち、漫画は2人でスタートするわけです。

才能を見極めるポイント

編集の仕事は、数多くいる漫画家の中から才能を見極め、ヒット作を作っていくのが仕事だと思っています。
「宇宙兄弟」の原作の小山さんとの出会いは、当時在籍していたモーニングの編集部に送られてきた1本の漫画です。
彼は当時、京都でデザイナーをしていましたが、いけると確信し、東京に来てもらいました。
才能を見極めるために着目するポイント、それは作家の観察力だと思っています。
そのためにどこを見るかというと、まず、「家」を描いてもらい、それをしっかり見てみます。
すると、新人の場合、写真も見ず、自分の頭の中のなんとなくのイメージだけで書いてしまいます。しかし、頭の中は、自分で観察したものではなく他人が作ったイメージに支配されています。
観察力ある人は、自分の感性に頼らず、しっかり写真を撮ったり観察したりしてから描きます。
また、イメージは、ものだけじゃなく、気持ちも同じです。
例えば、悲しい状況を考えるとき、たとえば、友達が病気で死んだ、という場面でも、友達が入院したときに悲しいのか、死んだときに悲しいのか、お葬式で実感するのか、それとも全部を悲しく感じるか。
悲しい状況を考える際に、どこで悲しいと感じるかを観察するのが作家の仕事だと思っています。

個性の出し方

ヒット作を作り出していく上で、作家には個性がないと生き残れません。
でも、若い人が個性を出そうとすると変なことに走ってしまいます。
では、どうすればいいのかというと、まずはフォームを覚えることが大事です。

トップを走る人

アイディアを大事にすることはもちろん重要です。
でもトップを走る人はどんどん捨てる勇気を持っています。
最初、小山さんは宇宙の話は無理だと断られました。しかし、この「宇宙兄弟」は宇宙飛行士・向井千秋さんのご主人である向井万紀雄さんが書かれた、奥さんが宇宙飛行士になった時に地球にいる旦那さんのお話からヒントを得て、その関係を兄弟に変えた話にすることで、企画が進み出しました。

インドネシアの皆さんへ

インドネシアに伺い、インドネシアで仕事をしたくなりました。
実は、ドラゴン桜という日本のマンガを、インドネシア人のマンガ家が描き直してローカライズするという企画が進行中です。
お楽しみに!

たくさんの人に見てもらえるアニメを 【永井幸治氏】



●永井幸治
1969年生まれ。讀賣テレビ放送株式会社編成局アニメーション部プロデューサー。1993年読売テレビ入社。1999年まで音楽番組、バラエティ、情報番組のディレクター、コメディの演出をする。営業職を経て、アニメプロデューサーに。担当番組は『結界師』、『ヤッターマン』、『夢色パティシエール』、『べるぜバブ』そして、『宇宙兄弟』と、ゴールデンタイム、全日帯の全国ネットアニメを多数手がける。

日本のアニメ事情

アニメの売り上げでは、DVDやパチンコ等での売り上げが伸びる一方、近年では海外向けが低下する傾向にあります。
今、海外で売れているアニメ、たとえば、ドラえもんやちびまる子ちゃんというのは10年以上前から続く作品です。
最近、日本で作られるアニメは、オタク向けのものが多いことから、私たちが作るアニメは、常に沢山の人にみてもらえることを意識しています。

「宇宙兄弟」のアニメ化

「宇宙」というテーマでのアニメは、機動戦士ガンダム、宇宙戦艦ヤマト、銀河鉄道999等たくさんありましたが、今までのものはどちらかというとリアリティの低いものが大多数でした。
では、なぜ「宇宙兄弟」をアニメにしようとしたのかというと、とてもリアリティのある作品だったからです。
リアリティが高いと、細かい設定を見る必要がない、とても見やすい作品となります。
そのリアリティがある中に、兄弟愛やこの先どうなるんだろうというワクワク感が入った作品です。

アニメプロデューサーの仕事

アニメの企画は、放送される1年〜1年半前に決めていきます。
企画が決まると次に、監督、シナリオ脚本、出演キャスト等のスタッフを決めていきます。 そして、200人~300人となったスタッフに何を見せたいかどう見せるか指示するのが、プロデューサーの仕事です。
この作品では、毎週、誰もが笑って泣けることを目指しています。
絵、声、音楽、すべてでいいものを作るために、方向性や意識を共有することを心がけています。
作品が出来上がり出すと、次は、いい作品を知ってもらう必要があります。
話題に挙げてもらう必要があるので、たとえば、テレビ等でのCMはもちろん、「宇宙兄弟」の場合、山手線の車内を広告でラッピングしたり、「宇宙兄弟」の作中に出てくる、いいセリフを常に使って企業宣伝の新聞も作ってみました。
宇宙飛行士の星出さんに、宇宙からアテレコしてもらうこともやりました。
お金をかけた以上の効果をあげるために話題をつくり、知るきっかけを作ることが大事です。

アニメの仕事

宇宙兄弟の場合、原作、編集の2人もアニメ制作に参加してくれています。
アニメに携わるには、声、絵だけじゃなくいろいろな技術が組み合わされています。
上手い絵を描くだけでなく、いろんな仕事があるということを知ってもらい、日本のアニメ、アニメ業界に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

インドネシアの皆さんへ

今回の訪問がきっかけで、アニメ宇宙兄弟の放送が決まりました。放送を見て、沢山の人に宇宙兄弟を見て貰えたら嬉しいです。


声に想いを載せて 【岡本ナミ氏】



●岡本ナミ
1977年生まれ。声優。株式会社アクロスエンタテインメント所属。現在までに多数のアニメやゲーム、吹き替え、キャラクターなど、声優として活動を行う。主な出演作品は、アニメ『DTエイトロン』(スアン)、『犬夜叉』(あゆみ)、『結界師』(アヤノ)等。また、専門学校東京ネットウェィブ「声優コース」の講師を行うなど、現在も活動の幅を広げている。

ワークショップでは、腹式呼吸の練習、実際のアニメの映像に合わせて声を出す、など実践的な内容となりました。

いい声優になるためには

声に想いを載せるためには、まず、物凄く人間観察することが必要です。
そして、自分の素直な感情をだすことも大事になってきます。

声優で難しいところは

声だけで感情を表現することは、やはり難しいです。
自分が表現しているつもりでもできていないことがあります。

インドネシアで声優を目指す皆さんへ

日本には「宇宙兄弟」のような素敵な作品が、まだまだあります。これからも、日本のアニメをたくさん見て欲しいです。
夢を追い求め続ける事は、困難な事もたくさんあると思いますが、続ける事が力になると思います。いつか同じ現場に立てたら嬉しいです。頑張って下さい!