【特別寄稿】高倉式コンポストからの草の根技術協力

「タカクラのバスケット(Keranjang Takakura)」という言葉を耳にしたことはありませんか。実は家庭から出てくる生ごみを堆肥にする容器、コンポストのことです。スラバヤ市では生ごみや剪定枝などの有機ごみを堆肥にし、これを利用して緑溢れる都市へと変貌しました。このキッカケとなったのが日本の北九州市からの技術協力であったことはご存知でしょうか。ここでは4回に分けて、この技術協力とその後の展開についてご紹介させていただきます。

第3話:JOCV(青年海外協力隊員)とのコラボレーション

 スラバヤ市での活動を通じて完成した堆肥化容器「タカクラのバスケット(Keranjang Takakura)」と堆肥化センターでの堆肥化技術をあわせたものは、「タカクラ式(Takakura Method)」と呼ばれるようになりました。この堆肥化技術協力は海外での活動だけではありません。日本国内でも実施しています。私の職場は福岡県北九州市にあり、毎年JICA九州の海外研修生を(公財)北九州国際技術協力協会を通じて受け入れています。ここでは、「タカクラ式(Takakura Method)」をベースとする堆肥化技術研修を実施しており、アジア、大洋州、中南米、アフリカ、中東の様々な国が対象です。例をあげるとフィリピン・ブータン・インド・スリランカ・フィジー・アンティグア バーブーダー・ドミニカ・スーダン・エジプト等30か国以上にもなります。

海外研修生との講義は楽しく


研修には笑いも必要 鳥が飛び出すマジック
 海外研修生は、堆肥化技術の知識を持っていない方がほとんどであるため、0.5日~2.0日の間で堆肥化の基礎を理解していただくよう様々な工夫を凝らしています。
 一番はなんと言っても「“アイスブレイキング”からスタート」です。
 席に着くと直ぐに講義を始める方もいらっしゃいますが、私はまず、研修生のコミュニケーションをしっかりと取ってから講義スタートです。研修生に私というもの(雰囲気)をしっかりとつかんでいただかないと、私の言葉は入っていきません。私と研修生の「壁をとっぱらう」と表現することもできます。
 二番目は「分かりやすく説明すること」です。
難解な専門用語をならべずに平易な用語を用います。
難しい事項は図を描きながら説明し、言葉よりもイメージで理解できるようにします。
 同行する通訳の方は前もって講義資料をもとに自分なりに勉強してこられますが、得意分野ではない難しい事項は、間違って訳してしまうこともあります。通訳を介する時はこの点に注意しなければなりません。「分かりやすく説明すること」は、通訳の間違いを自然に抑えることにもなります。
 最後に「楽しい講義・飽きない講義」です。
一方的に話すのではなく、双方向の講義となるよう努めます。
頻繁に質問して意見を求めたり、無作為に当てて無理にでも意見を述べてもらいます。空事を考えていては答えられません。
所々に笑いを入れます。
講義は真剣勝負ですが気を張り詰めてばかりいると疲れてしまいます。所々でお笑いの要素(関西の吉本新喜劇のノリ)を入れて緊張をほぐしリフレッシュしていただきます。さらに私はとっておきの技として手品を持っています(ただし、コメディマジックですが…)。身体から鳥が飛び立っていく手品で、まず爆笑間違いなしです。

JOCV(青年海外協力隊員)に堆肥化技術研修を


真剣に講義に聞き入るJOCV
 このように堆肥化技術の知識を持っていなくても、堆肥化技術のエッセンスを楽しく学ぶことができると評判になり、まず、2010年9月海外向け研修にJOCVが参加しました。その後、環境教育技術顧問の先生が2011年12月の研修にオブザーバーとして参加されました。研修が終わってからの感想は「難解な堆肥化技術がストンと私の中に落ちた。しかも様々な地域での汎用性もある。」というお言葉でした。この御縁から、JOCV派遣前技術補完研修に、北九州市での「タカクラ式(Takakura Method)」をベースとする堆肥化技術研修が加わることとなりました。長くなりましたが、これが私がJOCVと係りを持つキッカケとなりました。

 環境協力隊員は途上国の任地で現地のニーズに合わせて環境改善に取り組んでおり、ごみ問題の解決が共通課題であるといえます。日本でもそうですが、ほとんどの国において発生するごみ量の内、約半分を占めているのが生ごみです。生ごみは腐る、害虫の発生、不衛生等の原因となり、この生ごみを分別処理するだけで、ごみ全体の半分が減量化・資源化され、残ったごみも資源化されやすくなり一挙両得です。生ごみの資源化方法としては堆肥化以外にメタン発酵、RDF(燃料化)、飼料化等もありますが、堆肥化が馴染み深く家庭でも取り組める方法として有効です。この堆肥化技術を学ぶことはJOCV、特に草の根で活動する環境協力隊員にとっては心強いツールとなります。

このような考え方からJOCV技術補完研修は2011年3月から正式にスタートし、JOCVの派遣に合わせ年4回開催され、今までに延べ130名の方に学んでいただきました。講義内容は座学と実技から構成され、より実践的に、より分かりやすく、そしてニーズを拾いながら少しずつブラッシュアップしています。講義内容を以下に示します。
① 堆肥化の目的と基礎理論(座学)
② 発酵微生物の採取と培養(座学・実習)
③ 生ごみの堆肥化(実習)
④ 中規模堆肥化センターの設置・運営:堆肥化センターと家庭用の違い(座学)
⑤ 堆肥と化学肥料の違い(座学・実習)
⑥ 堆肥の使い方(座学)
⑦ 途上国でのごみ教育(座学)
⑧ 堆肥化普及事業のケーススタディ:スラバヤの成功事例から学ぶ(座学)

JOCVへのOJT

 堆肥化技術を学び各国に派遣されたJOCVは現地のニーズに合わせて、生ごみ堆肥化に取組みます。しかし、現地では1人ですから1.5日学んだだけで「独り立ちしてくださいね。」と言われていることと同様、多少過酷な状況です。当の本人にとっては不安だらけの堆肥化スタートであったと思います。これを鑑みJOCVのフォロー体制の一つとして、彼らに生じる問題・課題を少しでも解決できるようにメールによるアドバイスを実施しています。また、現地へ赴いて直接フォローができる場合もあります。北九州市はJICA草の根技術協力事業のスキームを利用した海外技術協力を実施しており、必要に応じ私もその一員として参加しています。その時は現地のJOCVにも連絡を入れ、堆肥化活動に同行をお願いし、OJTの実施と質疑応答の場を設けるなどしてスキルアップができるようにしています。
 特にインドネシアに赴任したJOCVには現地から堆肥化に対する過度な期待が寄せられる場合があります。なぜなら、既に述べたようにインドネシアではスラバヤ市で堆肥化の取り組みが自立的に広がっています。この広がりはスラバヤ市内だけに留まらず、インドネシアの各地域に波及しており、自立的に堆肥化に取組んでいる地域も増えています。その中にJOCVが来ると日本人というだけで「タカクラ式(Takakura Method)の専門家」「堆肥化専門家」という位置付けで接してくる場合も多いようです。彼らにとっては大きなプレッシャーになりますが、むしろ大きな期待の下、「やりがいがある」と受け止めていただいています。

JOCVの失敗例、SOSを生かしてブラッシュアップ


JOCVによる発酵菌(土着菌)の探索
 私が堆肥化について学んできた地域は北九州市、「タカクラ式(Takakura Method)」を確立したのはインドネシア国スラバヤ市、そして私の海外活動地域はインドネシア、タイ、フィリピン、マレーシアと全て「お米の国」でした。堆肥化にとって重要な基材、すなわち発酵微生物を培養するための基材は、お米の国ならではの「米ぬか」と「もみ殻」を使用します。米ぬかの持つ栄養成分とバランス、もみ殻の形状と軽さ、そしてほど良く分解し難い等、私はこの両者が微生物を培養するうえで最も優れていると考えています。この面からも堆肥化のスタート地点がスラバヤ市であったことは、技術を確立するうえでラッキーだったといえます。しかし、JOCVの派遣先はお米の国に限りません。中南米の主食はトウモロコシや小麦なので、米ぬかやもみ殻は手に入りません。彼らから基材に関するSOSのメールが入ってきますが、米ぬか等の代替物の情報は持っていないので直ぐには対応できません。そのため、ウェブや文献、図書等で情報収集したり、実験をしたりしてその結果から彼らに応えています。現在のところ、米ぬかの代替物はふすま(小麦のぬか)、麦ぬか(大麦のぬか)、トウモロコシ粉等、もみ殻の代替物はわらや草を裁断したもの、落ち葉、腐葉土等が使えることが分かりました。このように具体的に示した方が分かりやすいですが、その代替物が手に入りにくい場合もあり、最終的に次の表現に落ち着きました。
 ・米ぬかの役割:微生物が増殖するための栄養分(例えば小麦のぬか、大麦のぬか、トウモロコシ粉等)
 ・もみ殻の役割:微生物の棲家(例えばわらや草を裁断したもの、落ち葉、腐葉土等)
 このように役割を明確にすることで代替物が探しやすくなります。
 そして、JOCVからの失敗事例の報告もあります。本人には申し訳ないですが、これを聞いたときは大笑いしてしまいました。
 ペットボトルを利用して培養液を作っていました。研修では、ふたの締め方の注意事項として、「ゆるく締め隙間を空けるように」と口を酸っぱく言っていたのですが、その時彼は何を思ったのでしょうか?きつく締め、部屋の中に置いて出かけてしまいました。家に戻ってドアを開けると、良い香り(異様な臭い?) とともに発酵液が部屋中に飛び散っている光景が目に飛び込んできたのでした。微生物が増殖時に二酸化炭素(炭酸ガス)を盛んに発し、ペットボトルの内圧が高まって爆発したのです。炭酸飲料用を使っていれば少々圧力が高まっても大丈夫ですが、海外の材質の薄いペットボトルでは耐えきれませんでした。その後、彼が泣きながら部屋を掃除している様子が目に浮かんできます。このような失敗も大切な事例として研修で話しています。
 このようにJOCVとコラボレーションすることで、様々な地域で日本発の堆肥化技術が活用されるだけでなく、彼らからの思いもかけない質問や取り組み事例など、その活動を通じて私たちの技術の向上や知見の幅が広がっています。
 お互いがお互いを刺激しあいながら日本発の堆肥化技術が広がりつつあります。


著者紹介

高倉 弘二
(株)ジェイペック 環境事業部 業務推進役
技術士(環境部門)、北九州市立大学国際環境工学部 非常勤講師:環境に関する化学分析・燃料分析、自然生態の復元・創成技術に関する研究開発、有機廃棄物資源循環システムの構築、環境学習・教育に関するプログラム作成と活用等を専門とする。

1959年生まれ
1982年 姫路工業大学応用化学科卒
1988年 (株)電発環境緑化センター(現 ㈱ジェイペック)入社、現在に至る。
2003年 NPO法人 北九州ビオトープネットワーク研究会 副理事長
2004年に(財)北九州国際技術協力協会(KITA)より、ジェイペック若松環境研究所にスラバヤ市(インドネシア)での廃棄物減量化・資源化活動について協力依頼があったことを受け、スラバヤにおいて、生ごみコンポスト・システムの開発普及に従事。コンポスト技術は「タカクラ・メソッド」と呼ばれ、廃棄物量20%の削減を達成。本技術は、東南アジアを中心に世界各国に広がりつつある。
2007年 スラバヤ市長から感謝状を授与。