【特別寄稿】高倉式コンポストからの草の根技術協力

「タカクラのバスケット(Keranjang Takakura)」という言葉を耳にしたことはありませんか。実は家庭から出てくる生ごみを堆肥にする容器、コンポストのことです。スラバヤ市では生ごみや剪定枝などの有機ごみを堆肥にし、これを利用して緑溢れる都市へと変貌しました。このキッカケとなったのが日本の北九州市からの技術協力であったことはご存知でしょうか。ここでは4回に分けて、この技術協力とその後の展開についてご紹介させていただきます。

第4話:JICAを通じた各地域・各国への広がり

 ついに4話構成の最終話になってしまいました。
 日本発の堆肥化技術「タカクラ式(Takakura Method)」が様々な地域で必要とされていることは、JICAが受け入れている海外研修生が研修後に作成したアクションプランや感想・意見からもひしひしと感じています。そして、この技術・考え方を少しでも多くの方々に知っていただき、取り組んでいただければ幸いです。そのためのツールとしてJICAのウェブを通じてこの技術をご紹介させていただいています。特にJICA-Net Libraryでは様々な国の方に見ていただけるように、映像で日本語、英語、スペイン語に対応しています。以下ウェブアドレスを記載いたしますので、ご興味のある方はご覧ください。

世界へ向けて発信する


中南米での集合研修
 日本での堆肥化技術研修の受講、JOCVの現地活動及びウェブ情報による取組等を通じて様々な国と地域で生ごみの堆肥化が取り組まれています。しかし、全てが成功しているわけではありません。その地域特有のトラブルが発生したり、地域性や国民性から、堆肥化をスタートしたものの継続できていないという失敗事例もあります。これらを成功に導くためには何と言ってもフォローアップが重要であり、ノウハウ取得、トラブル解決、そしてモチベーションの維持や向上に大きく貢献します。これに有効なのが各地または各国の関係者が集まるフォローアップ研修です。
 ここでのフォローアップ研修とは堆肥化に取組んでいる方々、特にJOCVとそのカウンターパート(現地の協働機関)を対象に実施しています。ちなみに2013年中南米での研修はコスタリカで開催され、ドミニカ共和国、セントルシア、メキシコ、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、パナマ、ベネズエラ、エクアドル、ペルー、ボリビアの12ヵ国からの参加がありました。そこでは、技術的事項だけでなく、国を越えての情報交換やコミュニケーションが積極的に図られ、JOCVとカウンターパート間の信頼感・一体感の深まり、国を越えての連帯感の醸成とモチベーションを高めることができました。研修開催地のJOCVには計画から進行までの全てをお膳立てしていただくので、彼らは大変だとは思いますが、終わってみると「苦労した甲斐はあった。」と思っていただけるようです。
 そして私にとっても良いことがあります。それは、訪れることなど想像もしていなかった国に行ける(行けた)ということです。決して旅行気分を味わうというわけではありません。このことだけは強調しておきます。

日本人特有のセンス「おもてなし」

 総領事館便りを書くに当たり、「タカクラ式(Takakura Method)」を確立するために必死になって考え活動した当時を振り返り、またJOCVの活動の様子を思い起こしていると、以前に読んだ新聞記事を思い出しましたので簡単に紹介いたします。
「躍進する中国企業の工場へ視察に訪れたときのこと、社の目標を3つ大きく掲げてあることに気付きました。
 1. 品質はドイツを目指せ!
 2. 価格は中国を目指せ!
 3. サービスは日本を目指せ!
日本からは“高い技術と品質を学べ!”ではなく、中国企業が認めたのは“サービス”でした。」
 これを読んで、私は「高い技術や品質を持っている国は他にもある。しかし、サービスは日本が抜きん出た力を持っている。」と解釈しましたが、何か違和感が残っていました。「この抜きんでた日本のサービスを単純に他の言語の“サービス”に置き換えられない。」という思いです。サービスはどこの国にもありますが、日本のサービスは他の国とは違うものも含んでいる気がしていました。それが今改めて見直されている「おもてなし」だと感じています。「相手の立場に立ち、心を込める。そして見返りを求めない。」すなわちボランティアの心でもあると思います。「おもてなし」も「Mottainai」と同様「Omotenashi」としても良いと思います。現地で活動するに当たり、この「おもてなし(Omotenashi)」を如何なく発揮できるか否かで、活動の成否も変わってくるように思います。

イノベーションを起こそう


相手の立場に立ってイノベーション
 イノベーションを起こすヒントとなるのは、実は中学校で勉強した「因数分解」です。これは要素まで分解することを意味し、これをもとに様々な組み合わせを考え、最適な解(方法・技術)を導くことができます。
 「例題として新鮮な鯛の料理を考えてみましょう。使用する調味料は自由です。美味しそう云々は、人それぞれの好みになるので問いません。さてあなたは、何種類の料理を思い浮かべることができますか?」
 ここでは鯛の切り身のピカタを考えることにして、調理方法の因数分解をしてみます。
 調理手順の概要は次のようになります。
  (1) 鯛を三枚におろし切り身を用意する。
  (2) 切り身に塩、こしょうを振り下味を付ける。
  (3) 小麦粉をつける。
  (4) 溶き卵にくぐらせる。
  (5) フライパンを熱し油を引く。
  (6) 溶き卵をくぐらせた切り身に火を通し、両面に焼き色つける。フライパンをきれいにし、ソースをつくる。
  (7) 皿に盛り付け、ソースをかける。
 大まかにはこのような流れになると思います。ここでの因数分解による要素は次のように考えることができます。(一例です)
  (1) 鯛を三枚におろし切り身を用意する。
   二枚おろし、三枚おろし、五枚おろし、大名おろし、松葉おろし 5種類
  (2) 下味(使用する調味料)
   塩、こしょう、カレー粉、砂糖、しょうゆ、ニンニク 6種類
  (3) 衣づくり
   小麦粉・片栗粉・米粉 3種類
  (4) 溶き卵(卵の種類)
   ニワトリ、うずら、ダチョウ 3種類
  (5) 油で加熱
   サラダ油、オリーブ油、大豆油. 菜種油. べに花油、コーン油、ゴマ油、椿油、紫蘇油 9種類
  (6) 焼き加減
   レア、ミディアム、ウエルダン 3種類
  (7) ソース
   バター、しょうゆ、カレー、ウスターソース、マヨネーズ、トマトケチャップ、中華出汁、ブイヨン、デミグラソース、チーズ、ハーブ 11種類
  (8) 盛り付け(付け合せ野菜、盛り付け皿)
   ここでは1種類だけとします。
 ざっと考えただけでも、これだけの種類をあげることができました。あとは(1)から(8)までの組み合わせになります。数学的に考えると「5×6×3×3×9×3×11×1=80,190種類」にもなります。
 これしかないと思い込まずに要素にまで分解することが、地域に最適な技術・方法を提供できる大きなヒントに結びつくと考えています。ただし、最後には個人のセンスも大きく係ってきます。

良質な堆肥が世界を救う


街が変わると子供も変わる
 次に今後堆肥が担うべき重要な役割を述べて終わりにしたいと思います。
 私たちが暮らす地球の総人口は既に71億人を超えました。この人口の爆発的な増加を支えたのは科学技術の進歩であり、なんといっても食料の増産を図ることができたことが大きく貢献しています。穀物の品種改良により多収穫が可能となったのです。しかし、多量の水・化学肥料・農薬を投入するという農法に偏ってしまい、土壌中の生物相の単純化や有機物の消耗等を引き起こし、健全な土壌が疲弊することとなりました。その結果、さらに多量の化学肥料や農薬の使用を招くことになり、環境へ悪影響を与えています。例えば窒素系肥料の多施肥は、硝酸体窒素・亜硝酸体窒素の河川や地下水への流出により地域環境に大きな影響を与えたり、地球温暖化ガスの一種である亜酸化窒素ガス(温暖化係数310)の生成を促すことにもなります。
 このような状況を鑑みると、今後私たちが考えなければならないのは、如何にして環境に配慮した持続可能な農業を推し進めるかということです。そのためには健全な土壌を守り、疲弊した土壌の改善を図ることが必要です。ここで、私は健全な土壌とは「団粒化している土壌」と表現できると考えています。皆さんも森の中で土を掘り返してみると、土が粒のような固まりになっていたり、根の周りに固まりとなって付いていたりするのを観察することができます。これが団粒化した土壌であり、植物の成長に必要な条件(物理性・化学性・生物性)を全て揃えています。簡単には「余分な水は流すけれども水持ちが良い、空気の通りがよく根張りが良い、肥料持ちが良い、病気に強い土壌」と表現することができ、まさに良いこと尽くしです。
 このような健全な土壌が持つ団粒が壊れていく現象(土壌の疲弊)があちらこちらで起こっています。これを抑制したり改善したりするためには良質な堆肥の施肥が効果的です。特に生ごみから作った堆肥は微生物の種類・量ともに豊富で、ミミズやトビムシなどの土壌動物の数や種類も増え、生物の多様化が図られることで、その効果も高まると考えています。
 生ごみにひと手間加えるだけで、素晴らしい堆肥に生まれ変わります。皆様も生ごみ堆肥化にご注目ください。

最後に


送別会 NGO代表とも分かり合えた
 皆様のおかげで、インドネシア国スラバヤ市で始まった小さな取り組みが、「タカクラ式(Takakura Method)」という形で確立することができ、そして少しずつ少しずつですが様々な国・地域へとその輪を広げています。私はこの活動に参加できたことを感謝し誇りに思っております。
 最後にJICAの皆様、北九州市役所・市民の皆様、(公財)北九州国際技術協力協会(KITA) の皆様、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)の皆様、活動を応援して下さいましたJ-POWERグループの皆様、ご教授くださいました皆様、そしてなんといってもスラバヤ市の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りし改めてお礼申し上げます。

(完)

著者紹介

高倉 弘二
(株)ジェイペック 環境事業部 業務推進役
技術士(環境部門)、北九州市立大学国際環境工学部 非常勤講師:環境に関する化学分析・燃料分析、自然生態の復元・創成技術に関する研究開発、有機廃棄物資源循環システムの構築、環境学習・教育に関するプログラム作成と活用等を専門とする。

1959年生まれ
1982年 姫路工業大学応用化学科卒
1988年 (株)電発環境緑化センター(現 ㈱ジェイペック)入社、現在に至る。
2003年 NPO法人 北九州ビオトープネットワーク研究会 副理事長
2004年に(財)北九州国際技術協力協会(KITA)より、ジェイペック若松環境研究所にスラバヤ市(インドネシア)での廃棄物減量化・資源化活動について協力依頼があったことを受け、スラバヤにおいて、生ごみコンポスト・システムの開発普及に従事。コンポスト技術は「タカクラ・メソッド」と呼ばれ、廃棄物量20%の削減を達成。本技術は、東南アジアを中心に世界各国に広がりつつある。
2007年 スラバヤ市長から感謝状を授与。